主要疾患解説

disease

 糖尿病

糖尿病は血糖値(血液中のグルコース値)が慢性的に高くなることによって腎症、綱膜症、神経症などの3大合併症、さらには心筋梗塞や脳梗塞といった大血管障害を来す疾患です。さらに、認知症や悪性疾患の合併も多いです。

最近の傾向としまして比較的早期に通院され通院を継続される方が多数ですので、喜ばしいことに3大合併症で苦しむ方の割合はかなり減っております。さらに、ABI検査頴動脈エコー検査など、動脈硬化を安全に評価できる検査ができるようになったこともあり、動脈硬化の末期状態である心筋梗塞や脳梗塞、慢性閉そく性動脈硬化症(足の血管の動脈硬化;足壊疸につながる)も通院患者さんにおきましてはかなり減っております。

こういったこともあり、通院を継続されている糖尿病患者様の平均寿命は確実に伸びてきております。今から30年前に60歳であった方、当時その方も主治医もまさかこんなに寿命が延びるとは予想していなかったはずで、外来においてそのような対策もほとんどされていなかったのです。 ところが、平成元年と令和元年で比べますと男女とも平均寿命が5〜6年延びております。たとえば高齢者において5年寿命が延びると認知症になる確率は約2倍になると言われ、 こうした高齢者に多い疾患の対策が大切になってきます。

通院継続糖尿病患者さんにおいては「長生きのしたときの対策」が大切になってきております。さらに最近の傾向としまして、早く亡くなられる場合、原因として悪性疾患の占める割合が高くなってきております。ですから悪性疾患になりにくいような生活の指導と、さらに希望者には悪性疾患を早期発見するための検査をしていくことになります。

 1型糖尿病

1型糖尿病は治療の難しさという点で、 大きく2型とは異なります。1型と2型の違いは成因にあり、2型が遺伝的な素因に加えて食べ過ぎや運動不足とい った生活習慣が重なり発症します。これに対して1型糖尿病は生活習潰病ではなく自己免疫疾患です。本来身体を病原微生物から守るはずのリンパ球が患者さんの膵臓にあるβ細胞を病原微生物扱いして攻撃します。(β細胞はインスリンという血糖値を下げるホルモンを分泌しています。)β細胞はほぼ壊滅してしまい血糖値は上昇します。糖尿病の内服薬はβ細胞の働きを利用して下げているものがほとんどであり、内服薬の効果は期待できず1型糖尿病では生涯インスリン治療が必要です。さらに2型糖尿病でインスリン治療している患者さんよりも血糖コントロールが難しく、血糖自己測定もより多く必要になります。

さらに、2型糖尿病で治療がグレードアップされる場合は比較的緩徐にされますが、1型の場合は急性発症する場合も多く、いきなりインスリン注射と血糖自己測定を開始される場合も多いです。 発症された患者さんからすると「どうして私が?!」という心「青になることが多いです。1型糖尿病の患者さんにとって何が最も大切かというと「心の持ちょう」です。いつまでもなってしまったことを悔やみ治療にしり込みしないことです。1型糖尿病になったことは確かに不運です。しかし不幸になってはいけません。そのために日々における少しの努力と病気を受け入れる心が大切です。 正しい知識と病気を受け入れる心があなたの未来を明るくします。1型糖尿病の治療ですが、 1型は生活習慣病ではないので、 他に食事を減らすべき疾患を合併していなければ原則食事ごとのカロリー制限は不要です。ただし、食事・運動に関して注意があり、食事ごとの摂取カロリーを一定にすることです。朝食は例えば500カロリーなら500カロリーで一定に、さらに昼食は700カロリーなら700カロリーで一定にすることです。

運動してもコントロールが改善することは1型ではありませんが血糖変動幅 を小さくするため。毎日の運動する時間帯や運動呈を一定にする工夫が必要です。 血糖自己測定に関しては、インスリン注射の量や種類を決定しやすいように行うものです。

 高血圧

高血圧とは、安静状態での血圧が慢性的に正常値よりも高い状態をいい、動脈硬化が進みます。動脈硬化が進むと動脈が詰まったり、破裂したりする危険性が高まります。糖尿病などの生活習慣病と同じく、最近の傾向として早めに通院され継続される方が増えております。さらに最近では動脈硬化を安全に評価できる検査(ABI頸勧脈エコーなど)もできるようになり、高血圧の重篤な合併症(脳出血、心筋梗塞、脳梗塞など)になる方はかなり減っております。

最近の降圧剤は長時間型のものが主流で、一旦目標レベルまで下がった場合、かなり長期に渡って良好な血圧コントロールが得られる場合が多いです。当院では、家庭での血圧測定を推奨しております。血圧手帳に測定値を記載していただき、その平均値を目標レベルにもっていくようにしております。目標レベルは病態や年齢ごとに異なります。たとえば中年期の高血圧の場合、家庭血圧において130/80mmHg程度まで下げることを目標とします。

最近では治療抵抗性の高血圧は減ってきております。治療抵抗性高血圧は、生活習慣を改善し降圧剤3種類使っても目標レベルまで下がらない場合を言います。しかしながら減っているだけで治療抵抗性の方は今でもいらっしゃいます。その場合、4種類、5種類と降圧剤を増やすよりも、妥協することも必要です。次に治療抵抗性高血圧の原因として重要な原因が睡眠時無呼吸症候群です。睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が止まる病気で、早朝高血圧を呈することが多く、よく使われる降圧剤であるカルシウム拮抗薬やARBというグループの降圧剤に対して抵抗性を示します。当院でも睡眠時無呼吸の検査は可能ですので、早朝高血圧の方や治療抵抗性高血圧の方は調べてみる価値があると思われます。

 脂質異常症

血液中の中性脂肪やLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール値)が高過ぎても、逆にHDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)の値が低過ぎても、動脈硬化を引き起こすリスク因子になります。脂質異常は血液中の脂肪分(LDLコレステロールや中性脂肪)が多過ぎる、あるいはHDLコレステロールが少な過ぎる状態をいいます。

高ければすぐに内服治療を開始すべきか?

最近では動脈硬化の程度を安全に評価できる検査(ABI検査頴動脈エコー検査等)があります。そういった検査において危険な動脈硬化病変が見つかれば内服を開始すべきです。さらに総コレステロールの基準値はかなり以前に作られたもので、これは心筋梗塞のリスク上昇が根拠になっております。しかし、コレステロールが高いことで増える疾患がある一方で減る疾患(がんなど)があるのです。こういった場合、総死亡で見て低くなる値を目標とすべきです。どんな に理論が美しくとも医学において絶対的なものがあります。それは総死亡です。コレステロールを下げて心筋梗塞で死亡するリスクが減っても総死亡が増えたら意味はないのです。

総コレステロール別値と総・死因別死亡率

「日経メディカル」2001年2月号より

動脈硬化が安全に評価できること、さらに上のグラフを見ると総コレステロール値が高いからすぐに薬を開始ではないことがわかると思います。

 認知症

認知症にはアルツハイマーやレビーなどいろんなタイプがあります。 いずれのタイプであっても正常神経細胞が減ることによって認知能が低下し、 社会生活に影響を及ぼすような状態を認知症と呼んでいます。 アルツハイマーではBアミロイドやタウと呼ばれる異常タンパクが、 レビーではaシヌクレインと呼ばれる異常タンパクが増えることで正常神経細胞が減り、認知症を発症しています。

1つ目のポイントは早めに治療介入すべきであるということです。一般に正常→主観的認知障害(SCI)→軽度認知機能障害(MCI)→認知症と段階的に進みますが、認知症は早めの気づき、早めの対策が大事で、その対策の開始は早いほどいいです。

認知症の予防は総合的に行うもので、正しい生活習慣の確率でかなり防げるものです。具体的には野菜や果物を多く摂る食生活や運動習慣、 喫煙しないこと、早寝早起き、たっぷり睡眠時間を取るなどです。次のポイントは認知症に適応のある薬、 中核薬といいますが、神経細胞が減ることに対しては無力であるということです。対症療法的に認知能を高めているだけなのです。減ってしまった神経細胞を増やすことは難しく、認知症発症後は現状維持できたら御の字です。下の図は、平川亘先生の「明日から役立つ認知症のかんたん診断と治療」より抜粋したものですが、認知能に対して長期的に効果があるのはシロスタゾールとガランタミンです。「今すぐ何とかしたい」といった場合、短期的に効果を発揮するリバスチグミンやドネペジルがありますが、何とか今は家で過ごせているので今を維持したい場合はシロスタゾールやガランタミンが選択されます。シロスタゾールは脳梗塞などの予防に用いるものですが、 最近、 認知症に効果が高いということで注目されています。使用できるのは頭部画像検査で脳梗塞などがある人になります。

認知症治療薬の効果とその持続

平川亘著「明日から役立つ認知症のかんたん診断と治療(日本医事新報社)」より

 フレイル

フレイルとは虚弱という意味を表す英語で、「加齢により心身が老い衰えた状態」のことです。高齢者のフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こす危険があります。フレイルの大切な点は、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があることです。

では、なぜ、亀岡内科で今フレイルなのか?

亀岡内科でフレイルに治療的介入をするようになった理由をご説明します。 最近では多くの生活習慣病患者さんが治療に成功しかなりの長寿社会が訪れて います。今通院中の特に女性に関して言うと、がんになろうとなるまいと半分くらいの方が90歳を超えて生きられ、がんで命を奪われなければ半分くらい の方が95歳を超えて生きる時代です。こういった年齢まで生きるとさすがに体力勝負となります。 体力のない方は寝たきりになるリスクが上がります。「寝たきりになって長生きするのは嫌だ!」これが多くの患者さんの思いです。寝たきりにしてしまっては患者さんの期待に応えていない、 そんな考えから亀岡内科ではフレイル予防に力を入れるようになったのです。

高齢者においては同級生ともう 度運動会で行われる綱引きや徒競走などのいろんな競技をしたと仮定して上位に入るような方が生き残り、 そして健康寿命も長いです。フレイル予防の上で問題になるのが、 期間が長過ぎる食事制限です。2010年にObesityという医学雑誌に玉腰暁子先生らにより発表された論文によると、高齢者において総死亡から見た死亡リスクの低いBMIの中央値は男女とも26あたりです。

高齢者の痩せ(低BMI)は総死亡率が高い

Tamakoshi Aら. Obesity(Silver Spring).2010;18:362-9引用改変より

さらに大崎町研究という研究で、要介護になりにくい体重も26あたりであることがわかっております。日本人は痩せ信仰がありますが、高齢になると小太りが有利であることはあまり知られておりません。標準体重が長生きする理想体重だと思われている方が多いのですが、これは中年期において最も医療費がかかりにくい体重であって、最も死亡リスクが低い体重ではありません。死亡リスクで評価すると、加齢に伴い理想体重は重くなり、 65歳を超えるとBMIで26あたりが理想です。このことをしつかり頭に入れて下さい。

高齢になるほど、しっかり食べてしっかり運動することです。食事内容ではタンパク質を多めに摂ることです。タンパク質は筋肉になるのですが、蓄えが効かない栄養素なので3食とも摂ることが大切です。フレイルの時期には、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります。タンパク質を多めにしつかり食べる、そして体力が落ちないようにしつかり運動することが大切です。薬では漢方薬の人参養栄湯が効果が高いです。ここでは詳しく触れませんが、フレイル予防には「社会性」を保つことも大切です。亀岡内科では高齢化社会を受けてフレイル外来、フレイル予防外来を行っております。

 悪性疾患

以前より生活習慣病の方は増えていますが、 多くの生活習慣病の方が早めに通院、その後通院継続されるようになった今、 その疾患の末期状態になる人はかなり少なくなっております。糖尿病や高血圧などの生活習慣病はいわば、持ったまま悪さをされることなく死ねるようなことが多くなっています。 長生きできない場合、その原因疾患のかなり多くを悪性疾患が占めます。ですから悪性疾患へどう対応するかは非常に大切です。

悪性疾患で命を失わないためには悪性疾患になりにくい生活習慣を確立することと、悪性疾患にかかった場合、助かる時期に治療をすることです。なりにくい生活とは、何より喫煙しないことです。さらに野菜や果物を摂り、運動をすること、お酒はほどほどにすることなどです。公益財団法人がん研究振興財団の「がんを防ぐための新12か条」などを参考にされると良いと思います。一部のがんは薬(化学療法)で根治できるようになりましたが、まだまだ多くのがんは手術で切り取るのが 番確実な方法です。ですから、がん細胞が切り取れる範囲にあと時までにがんを見つけることです。そのためにはがん検診が必要です。

悪性疾患で命を失うことを防ぎにくい理由はいくつかあります。

一つは検査が大変なこと、例えば胃カメラは苦痛を伴う検査です。一般に受けた方が良いのはわかっているけど、検査が遠のきがちになります。さらに胃カメラ検査では胃がんや食道がんが発見できますが、胃カメラでがんがないからと言って、決して大腸がんがない、肺がんがないとは言えません。悪性疾患の場合、それぞれの検査が独立しています。これに対して、動脈硬化の検査は例えば、頸動脈エコーの検査で頸動脈に狭窄があれば「足の動脈にも狭窄があるのでは?」と推定できます。動脈硬化の検査は独立しておらず結果に関連性があります。さらに手遅れでない状態から手遅れになるとして、 般に動脈硬化よりもがんの方がこの期間は短いです。こういった理由で悪性疾患の方が助かりにくいのです。人生は1回ですし、こういったことを踏まえてがんの検査を「受ける ・ 受けない」を決めて欲しいと思います。

 バセドウ病

バセドウ病は自己免疫疾患に属する疾患で、甲状腺に対する自己抗体(抗TSH受容体抗体:TRAb) が出現し、それが甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンが過剰になる疾患です。若い女性に多い病気です。

バセドウ病の症状には、甲状腺の腫大、動悸、頻脈、汗がたくさん出る、手指のふるえ、食べても痩せる、下痢などの症状があります。これらは甲状腺ホルモン過剰による症状です。目玉が飛び出る眼球突出は有名ですが、バセドウ病の患者さん全てに見られるものではありません。眼球突出は抗甲状腺受容体抗体により生じている症状です。

甲状腺ホルモンが過剰な状態(甲状腺機能冗進症)が長く続くと、心臓に負担がかかり、心不全を起こしたり、頻脈性の不整脈を来したりします。さらに甲状腺ホルモンが過剰な状態が続くと将来骨粗慇症になりやすいことがわかっています。

バセドウ病の治療法は3つあります。

1番目が甲状腺ホルモンの働きを抑える薬、 ①抗甲状腺薬による治療です。抗甲状腺薬にはメルカゾールやチウラジールがあります。いずれも無顆粒球症や肝障害、薬疹などの副作用があります。抗甲状腺薬が副作用で使えない場合や効果が不十分な場合は②手術や③放射線治療です。 手術や放射線治療は当院ではできませんので、専門病院である関西医大病院や隈病院などをご紹介します。放射線治療は外から放射線を当てるのではなく、 放射性ヨ ー ドと言って甲状腺に取り込まれるヨードに放射線を放出する物質を付けたものを内服し、甲状腺を部分的に破壊し、甲状腺ホルモンの過剰を抑える治療です。 手術は甲状腺を部分的に切り取り、甲状腺ホルモンを作る工場を小さくするような手術です。診断や経過観察には甲状腺ホルモン(FT4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)、自己抗体であるTRAbを測定します。甲状腺ホルモン(FT4)が正常値になってもTRAbが陽性の間ば冶療を止めると再び甲状腺ホルモンは異常高値になります。落ち着いたら通院は一般に数か月に1回で十分ですが、無顆粒球症は危険な副作用で抗甲状腺薬を投与開始直後は早めに来院が必要です。

 橋本病

橋本病は甲状腺にリンパ球による慢性の炎症が起きている病気です。女性に多く、年齢別では20歳代後半以降、とくに30~40歳代が多です。バセドウ病が甲状腺に対する自己抗体による機能異常に疾患概念があるのに対して、橋本病は甲状腺の病理(リンパ球による甲状腺の慢性炎症)に疾患概 念があり、甲状腺機能が落ちる疾患の代表ではありますが、必ず甲状腺機能低 下症を来すわけではありません。橋本病のうち10%くらいの方が、甲状腺ホルモン値が低下し、甲状腺機能低下症となり甲状腺ホルモン製剤の内服が必要となります。

橋本病も自己免疫疾患で、自己抗体が出現し、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)や抗サイログロブリン抗体(抗Tg抗体)が出現します。橋本病の症状には甲状腺が腫れる、浮腫む(粘液水腫と言われる)、皮膚が乾燥する、寒さに弱くなる、脈が遅くなる、無気力になるなどがあります。橋本病の患者さんには、甲状腺に悪性リンパ腫ができたり、無痛性甲状腺炎と言って甲状腺に痛みのない炎症が起こり、甲状腺内部に蓄えられていた甲状腺ホルモンが漏れ出て一過性の甲状腺機能充進症を来したりすることがあります。

診断は、血液中の甲状腺ホルモン(FT4)濃度と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定をします。そのバランスによって甲状腺機能が正常なのか低下しているのかを判断します。さらに甲状腺に対する自己抗体である抗Tg抗体や抗TPO抗体の有無を確認します。これらの抗体が陽性なら橋本病と診断します。 橋本 病なら治療が必要かというと、甲状腺ホルモンが低値、もしくは甲状腺刺激ホIレモン(TSH)高値でなければ冶療は不要です。その時は機能低下症が無く治療が不要でも経過中に機能低下症になることもあり、年に1回くらい血液検査で甲状腺ホルモンを測定しておくといいでしょう。治療は内服薬を用いますが、甲状腺ホルモンそのものが薬になっています。一般にチラーヂンSと呼ばれる甲状腺ホルモン薬を欠乏しているだけ補充します。急に大量に服用すると心臓に負担がかかることがあるため、高齢者、心臓に病気のある方、機能低下が著しい方には少量から服用を始め徐々に増量していきます。